本気で仮説を立てるとは

すぐにあきらめず自分のできなさと向き合う

 前にも書いたように、私が高校数学2Bで

つまずいた原因は、私の中の

「生まれつきの能力は変わらない」という

「こちこち(固定)能力観」でした。

 

●「女性の場合、中学くらいになると

数学ができなくなることが多い。

それは数学が中等レベルとなると、

それこそ本気で自分で仮説を作らないと

解けなくなることに起因している」と

キャロルという女性心理学者がいっています。

(青山学院大学教授 佐伯胖氏/らくだ通信)

 

 私は数学の問題の答えが浮かんで

こなかった時、割合すぐにあきらめ

丸暗記をしました。

「才能がない」とすぐにあきらめるのは、

学習だけではありません。

行動にも反映されていました。

高校で入部した剣道部も3ヶ月で退部し、

スキーも3回、麻雀も2回で才能がないと

あきらめました。

ところが元オリンピックバレー選手の

川合俊一氏がこんな話をしています。

川合氏は運動の才能がなく、

弟さんの方が遥かに身体能力が高かったそうです。

 

●「オレはぜんぜんダメなんで、

なんとかしなきゃと思って

ずっと続けちゃんです。

弟はなんでもできるから、

すぐにやめちゃうんですよ」

「オリンピックに出るような選手って、

たいてい才能的に一番の人じゃないんです」

(『ほぼ日刊イトイ新聞』091215より)

 

 多くのオリンピック選手は才能が

一番ではなかったとは意外でした。

またミシュラン三ツ星の寿司店

「すきやばし次郎」の小野二郎氏(82歳)も、

生まれつき不器用だったそうです。

その上、不利な左利き、

しかも26歳からというかなり

遅い時期に寿司の修業を始めたのです。

 

「不器用だったからこそ人

一倍努力をし、人の3倍考えたんです。

あきらめては駄目ですよ」

「(仕事が合わないという人が

いますが)仕事というものは

自分の方が合わせるものです」

(NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」より)

 


 才能がなくても不器用でも、とにかく

「すぐにあきらめないこと」が大事。

まずは自分のできなさや、わからなさに

じっくり向き合い続ける。

そこから自分の中に眠っている能力が

立ち上がってくるかもしれないし、

「本気で仮説を作る」ことにも

つながるような気もします。

大事なことは手取り足取りでは教えられない

 また小野氏は寿司の握り方を二人の

ご子息に伝えることについてこう言っています。

 

●「私は『これをこうしろ

ああしろ』って教えるってことは

しないですよ。

みんな見て覚えろってこと。

『こうだああだ』と教えたら

覚えられないんです、あれは。

自分で苦労して覚えないとだめなんです。

ある程度のまねごとは覚えられても

真から覚えることは

できないんですね」(フジテレビ)

 

 佐伯氏も「仮説を作る」ことについて

同じことを言っています。

 

●「仮説を作る」とは、課題を解く時に

「こうやればいいのかな」と

いうことを自分で思いつき、

自発的に自分の行動プランを考えた時に

できるのであって、「こうやれ」と

命令されたり、「こうするのだ」と

手取り足取り教えられてもできないのです。

(佐伯胖氏/らくだ通信)

 

「仮説を作る」あるいは「数学」は、

寿司修業と同じなのかもしれません。

そして一番大事なことは手取り足取りして

教えたり伝えることはできないし、

ましてや教えられる方も待っている姿勢では

何も受け取ることもできないのでしょう。

 

まず自分のできない状況や、わからない状況を

受け入れて、それを自分でなんとかしようとする姿勢。

 たとえ苦労があってもどうにかして

相手から技術を盗み取るくらいの姿勢が

ポイントのようです。

 

 不器用、才能がない、自分に合っていない。

不利な条件は探せばどこにでもあります。

でも不利な条件だからこそ、

「本気で仮説を作る」ことができるような

気がします。

 

私も「本気で仮説を作る」体験を

するために、苦手だった高校数学に

改めて挑んでみようかなと思いました。